05842-200403 成蹊大学法学部に入学したみなさんへのメッセージと学問生活を豊かにする七つ道具
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成蹊大学に入学したみなさん、ご入学、おめでとうございます。
本来であれば今日、4月3日に入学式が挙行される予定でしたが、残念ながらキャンパスでお会いすることができません。代わりにweb入学式が公開されていますので、どうぞご覧くださいませ。
法学部は4月1日に新入生オリエンテーションを行う予定でしたが、それも中止せざるを得ませんでした。本来であればその場で、法学部の新入生全員と教員が顔を合わせ、出席した全教員から数分ずつご挨拶をするのが通例です。それも叶わないこの状況、なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいです。
代わりにここでshio.iconが今、新入生のみなさんに伝えたいメッセージを3点、書きたいと思います。
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1. 学問しましょう
大学は「学問」する場です。
「学問」とは「学を問う」こと。
「学」とは人類が長い歴史の中で得てきた知見の集合体です。
「問う」とは、「本当にそうかな?」「それでいいの?」「それで妥当だろうか?」「もっと別の考え方はあるかな?」と疑問を持ち、自分なりの次なるアイディアを考え出そうと「研究」することです。簡単にいえば常識を疑うことであり、書物や人の話を鵜呑みにせず、検証します。これを「批判(critique)」といいます(「非難」と混同されることがありますが両者はまったく異なりますのできちんと峻別しましょう。批判は建設的、非難は否定的です)。
「学問」が目的。「学習」はその手段です。
「学を問う」ためにはまず「学を知る」ことが必要ですから、そのために「学習」をします。
学んで「!」、問うて「?」。アイディアを出して「!」、それを検証して「?」。 「!」と「?」との知的循環です。知識を身につけ、考えて、知恵を生む循環です。
「法律」とは社会の「ルール」です。いわば社会的なゲームのルールです。人の自由を最大化するためにあります。
「法律学」とは、社会のルールを組み立てて社会的なゲームをデザインする、未来志向のクリエイティブな学問です。そのためにはまず現在使われている(過去に作られた)法律を「学習」します。そのうえで、変貌していく社会の未来を展望しながら、未来の社会にマッチすると思われるルールの体系に作り替えていったり、新たなルールの体系を作り出したりします。「未来志向でクリエイティブな学問」なのです。
法律問題の答えに唯一絶対の「正解」はありません。100人いたら100通りの「解」があります。
正解探しの旅に出ると、路頭に迷います。唯一絶対の正解が存在しないからです。
正解がない、というと不思議に感じるかもしれませんので、次のように考えてみるといかがでしょうか。一つの法律問題に関して、原則として3回、裁判できます。その3回の判決は、それぞれ内容が異なります。もし法律に唯一絶対の解があるのなら、3回裁判して3回、同じ判決が出るはずですから、裁判は3回もせずに1回でいいはずですし、そもそも裁判をする必要すらないでしょう。街にたくさんいる法律家(弁護士など)に問い合わせれば「正解」を教えてくれるはずだからです。
しかし実際には3回裁判したら、3つの異なる判決が出ます。結論が同じであってもその論理が異なることがほとんどです。このように、法律問題には唯一絶対の「正解」がありません。裁判官によって解が異なる。法律家によって解が異なる。法律学者はまた人によって解が異なる。
みなさんは法学部に入学しました。法律家への第一歩です。だから「この法律問題に対するあなたの解は何ですか?」と問われます。他ならぬあなた自身が法律問題に対して解を出すのです。そのスキルを身に着ける道程が法学部の4年間です。
現行法の条文を駆使して解を出せるものがほとんどです。しかし、新たなルールを作って(あるいはルールを変更して)解を出す必要があったり、より良い解が出せたりするかもしれない。いずれにしてもそれを論理的に、社会の人々から納得を得られるよう説明し、あなたの解として論じ、伝えることが求められます。
成蹊大学法学部ではそのような4年間の研究の集大成として、「卒業論文」を書きます。その論文であなたの「問い」と「解」を明らかにするのです。
shio.iconが担当している二つのゼミ(「shioゼミ」と「ドラゼミ」)で2019年度の学生たちが書いて製作した卒論・ゼミ論文集の写真を、以下に2枚、に貼っておきました。こんなものが書けるようになります。 法律学において「信じられるのは自分と条文だけ」です。
他人の言説を鵜呑みにせず「批評」する法律学において、法律に関するたくさんの情報を学習し、それに基づいて自分の解を出す際、信じられるのは自分と条文だけです。
信じられる自分になるために、まずは条文の読み方に習熟しましょう。そして自分で進んで「学問」しましょう。そのために自分で「学習」しましょう。その知見に基づいて、自分で「研究」しましょう。
誰かから教えてもらうという受け身の気持ちは捨て、教えを受けたら謙虚に受け止めて検証し、さらに自分で探求しましょう。そして自らの解を出していきましょう。それが法学部の学生として生きる道です。
4年間、真摯に「学問」を楽しんでください。shio.iconはそれを「楽問」と呼んでおります。 https://flic.kr/p/2iDsGUH https://live.staticflickr.com/65535/49650678481_11ac57c2bb_k.jpg
2. 継続的に文章を書きましょう
法学部で学んだ卒業生が社会に対して提供できる付加価値は何か。
いろいろあります。ルールを使える力、ルールを読み解く力、ルールを作れる力、ルールによって社会を変えていく力、ルールによって人を動かす力……。
美大で学んで絵画を描けるようになったり造形やデザインができるようになる。建築学科で学んで建築物を作り出せるようになる。情報科学科で学んでプログラミングができるようになる。作曲科で学んで楽曲を生み出せるようになる。そのような例を挙げるまでもなく、何かを学んだら何かを生み出せるようになり、それを社会に対して付加価値として提供できます。
法学部で学んだ学生はどんな付加価値を社会に提供できるか。究極的には文章です。絵画による表現、音楽による表現、建築による表現など、表現方法にはいろいろある中、文章による表現の技法を身につけるのが法学部の4年間です。
ビジネスは文章で動きます。企画書、交渉のメイル、契約書、お礼状、お詫び状など、文章の巧拙が成果を左右します。ですから、法学部の学生は4年間、文章力を鍛えましょう。
そのために書き続ける。速く泳げるようになるためには泳ぎ続ける、ピアノをうまく演奏できるようになるにはピアノを弾き続ける。泳ぎ方マニュアルや演奏法の教則本をどんなに熟読しても泳げるようにはならないし流麗な演奏だってできない。それと同じです。文章をうまく書けるようになるためには文章を書き続けるのが近道です。
文章を書き続ける過程で論理的思考を展開し、論理的に文章表現できる力を磨きましょう。それが卒業論文の質につながります。
法律学における文章は、基本的に「法的三段論法」にのっとって書きます。判決文、訴状、判例評釈、法律論文、ビジネス文書など、すべての基本的構造は「法的三段論法」です。
ですから、法的三段論法を知って、法的三段論法にのっとって読んだり書いたりできるようになりましょう。その方法はshio.iconの授業とゼミとできちんと教えます。法学部の法律科目のすべてが、この法的三段論法にのっとって説明され、解説され、論じられている、といっても過言ではありません。入学したらすぐに、この法的三段論法を理解して、4年間かけてそれを使えるように訓練していきましょう。
そしてもう一つ。あなた自身の価値観を磨いていってください。
文章で論ずる内容を考えるのはあなたです。あなたが研究し、あなたの解を出し、それを法的三段論法というフレームワークにしたがって論じます。社会はどうあるべきなのか。ルールはどうあるべきなのか。人をどのように動かすべきなのか。ルールをどう変えるべきなのか。何が善なのか。そのような「べき論」を検討し、研究し、あなたの解を出す際に、その本源となるのはあなた自身の価値観です。
部活やサークル活動も含め、たくさんの社会経験を積み、自然と戯れ、人と交流し、書物や教員から学び、友人と議論しながら、ご自身の価値観を磨いていってください。
肯定力を鍛えましょう。
肯定から始めるか、否定から始めるか。肯定で表現するか、否定で表現するか。
ぜひ、肯定から始める人になってください。ぜひ、肯定で表現する人になってください。それが前向きで、建設的に、人や各種の存在に感謝しつつ、創造的に前進する価値観を形成していきます。
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3. 深く議論する友人を大切にしましょう
学問、学習、研究、批判には、議論が必要です。
気の合う仲間が自然と集まって議論することになるでしょう。
でも学問においては自分と異なる見解が貴重です。自分と異なる立場、考え方、価値観、環境、言語、文化を背景にもつ人と語り合うことによって、自分の思考を立体的に形成していくことができます。同じ志向の人だけで集まると危険。思考が偏ってしまいます。
だから自分と異なるキャラクターの友人こそ宝です。馬が合わない、反りが合わない、そういう人こそ自分を成長させてくれます。自分に気づきを与えてくれます。自分に欠けている部分を補ってくれます。大切にしてください。大切に大切につきあいを続けると、卒業後も長い人生で、きっと価値ある存在になるはずです。
友人を大切にしましょう。他者を大切にしましょう。そして深く語り合いましょう。議論しましょう。学生生活が豊かになります。人生が豊かになります。
以上の3つ、shio.iconから新入生のみなさんへのメッセージです。お読みいただいて、どうもありがとうございます。
法律学科に入学された新入生のうち1/3の方々とは「民法I」で1年間、ご一緒します。また、17名のみなさんとは「演習IA」でご一緒です。さらに来年2年生になると「民法II」ですべての方々とご一緒することになると思います(とはいえ民法の教員は担当をローテイションしているので、来年度の授業担当者が誰になるかは未定です)。楽しく議論しながら研究を深めていきましょう。
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次にshio.iconの授業ないしゼミを履修する学生が使うと良い「七つ道具」をご紹介します。絶対に必要というものではありません。あくまでもshio.icon的な好みでご紹介するものですので、単なる参考としてご覧いただき、みなさんは自分の好みを追求して、ご自身に最適な研究環境を構築してください。
shioの授業を履修する学生のshio.icon的七つ道具
1. 万年筆
2. 5mm方眼ルーズリーフ(A4サイズ)を横置きで
3. 三色ボールペン(スタイルフィット)
4. Mac
5. iPad + Apple Pencil
6. Scrapbox
7. 法令集(六法)と法律学小辞典アプリ
です。順にご紹介します。
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1. 万年筆
法学部法律学科の学生は、文章を書いて書いて書きくります。筆記具、超大切です。
万年筆がベストです。毛細管現象によってインクが自然と紙に乗るため、筆圧ゼロで延々と書き続けることができるから楽なのです。司法試験の論述試験で一日数時間(1日めは7時間)、3日間にわたって答案用紙に論述を書き続けるのも万年筆です。ですので、ぜひ大学4年間で万年筆に習熟しましょう。 万年筆には2種類あります。
1万円以下:nib(ペン先)が鉄または合金でできています。しなりが少ないので、一般的に硬い書き味です。
パイロット:「kakuno」(1,000円)、「cocoon」(3,000円)、「Custom NS」(10,000円) 1万円超:nibが金でできています。しなるので、柔らかい書き味です。
各社いろいろ。
両者、良し悪しではなく好みです。shio.icon自身も両方使っています。入門用としては、1万円以下のもので十分です。
インクはカートリッジよりも、吸引式の方が便利です。カートリッジ式の万年筆にも「コンバーター」を入れることで吸入式として使えます。
インク吸引量が圧倒的に多いのがパイロットのカスタム823です。フォルカンニブとの組み合わせで、shio.icon的に究極の万年筆だと思います。これに出会って以来、日常的に使っているのは基本的にこれ1本です。 インクは染料と顔料があります。
一般的に流通しているインクのほとんどは染料です。発色が綺麗です。水に濡れると滲み、消えます。
顔料インクは書いたらすぐ乾き、裏写りもせず、滲まず、水に濡れても消えない耐水性や耐光性があり、安心して長期保存できます。 shio.iconは100%、セーラーの顔料インク「青墨」を使っています。ほとんどの印刷物は黒インクで書かれていますから、そこに書き込んだり自分で書いたものが青墨(濃い青)なら見分けがつきやすいからです。 黒インクがお好みならセーラーの顔料インク「極黒」が良いです。司法試験本番は黒インク必須なので、普段青墨を使っている学生たちも司法試験受験直前に万年筆の中身を極黒に入れ替えます。 LAMY SafariのF(細字)に同社のコンバーターを入れ、セーラー製「青墨」のボトルインクを使うのが答案やノートを筆記するのに適しています。 2. 5mm方眼ルーズリーフ(A4サイズ)を横置きで
ノートは横長に置いて使うと使いやすいと思います。テレビの画面やPCのモニタ画面、横長ですよね。両目は左右についているので、横長に使う方が自然だと考えています。
左側2/3に授業で教員が言っていることをひたすら書き取り、右側1/3に自分の疑問、発見、意見、見解を書きます。
そこでshio.iconは、5mm方眼ルーズリーフ(A4サイズ)を、カール事務器の「ルーズリング(10mm)」で束ねて、横置きで使っています。幾多のノート類を買って、使って、試してきたshio.icon的結論がこれ。表紙は不要。クリアホルダーに挟んでいます。ルーズリングは吉祥寺のヨドバシカメラの地下1階で売られています。100円程度です。購入するときは開閉するパーツもお忘れなく。開閉時の感触がいいんです。 3. 三色ボールペン(スタイルフィット)
学問において、読むとき、書くとき、主観と客観を分けることが本質的に重要です。
主観:自分の考え、思考、感情、アイディアなど、自分の脳から出てきて情報です
客観:自分に対して外から入ってきた情報です。さまざまな事実、書物の著者の言説、教員、友人など他人の言説などはすべて客観です。
読むとき、書くとき、これを分けるために、色を使います。shio.iconの場合は、下記の色を使っています。
主観の色:グリーン
客観の色:ブルー。重要な情報はレッド。
それゆえ、ノートを取る時など、基本的な色がブルーになるので、万年筆のインクもブルーの「青墨」を使うのです。ブルーを基本にすれば、書物に印刷されている活字の黒と自分の書き込みとがひと目で見分けがつくのも大きいメリットです。 これらを三色ボールペンで使い分けます。三色ボールペンとしては、スタイルフィットを使っています。 4. Mac
万年筆+ノート以上に重要なのがMacです。最高の文房具です。
shio.iconは1988年からMacを使っています。Windowsはまったく使っておりません。
Macの何がいいか、このブログにもたくさん書いておりますので、ここではちょっとだけ書きましょう。Macは簡単、綺麗、使いたい時に待ち時間ゼロですぐに使えて、無音で、かな漢字変換が全自動なので変換キーを押す必要がほぼなく、パスワードはすべて覚えてくれるので自分で覚える必要がなく、買い替えた時にMacからMacへの情報の移行が自動で、Mac/iPhone/iPad間で情報が常時同期されているので、例えばiPhoneで撮影した写真は何もせずにMacに来ていたり、連絡先やスケジュールも同期されるし便利便利。
成蹊大学の学生は、大学がAppleと契約しているので、1割引で買えます。その手順はポータルサイトのキャビネットの中にある「Apple on Campus」に説明されているので、読んでAppleに電話してください。簡単です。 機種は文系の学生なら「MacBook Air」がいいと思います。3月に新型が発売されて、shio.iconも購入しました。
5. iPad + Apple Pencil
学生たちの中にはiPadでノートを書いている人もいます。参考書もスキャンしてiPadに入れておけば、持ち歩きも軽々。 万年筆とノートは重要ですが、iPadの利便性に慣れてしまうと、正直言って紙のノートには戻れません。とはいえ、紙のノートにたくさん書くのも重要ですので、両方、使い分けるといいでしょう。
iPadで使うノートアプリは「GoodNotes 5」がベストです。shio.iconの授業で板書に使っているのもこのアプリですので、shio.iconの授業に参加する学生は見ることになると思います。たくさんのノートアプリを使って比べてきた結果、これが今、shio.icon的ベスト。価格も980円程度で、ノートアプリの中で最も安いです。 6. Scrapbox
Mac/iPhone/iPad/WindowsPC/Android端末などでノートや論述を書く最高の環境が「Scrapbox」です。個人利用、教育利用は無料ですので、安心して使えます。 授業で情報共有に使いますし、shioゼミで論述やプレゼンをする際に使うのはすべてScrapboxです。
7. 法令集(六法)
そして最後に法令集。一般に「六法」と言われる書籍です。
中でも最も薄くて軽くて安い『法学六法』を、shio.iconの授業では「教科書」として指定しています。
法学部の学生にとって、法律の条文こそが読むべき対象であり、それが掲載されている書籍が教科書です。それ以外の書物はすべて参考書です。
なお、成蹊大学で期末試験に持ち込める「指定六法」として、有斐閣の『ポケット六法』と『六法全書』が挙げられています(いずれも文字の書き込みをしていないものに限ります)。よって上記『法学六法』は期末試験に持ち込めません。ただし、shio.iconが担当する授業の期末試験に限っては「教科書」たる『法学六法』の持ち込みを(文字の書き込みをしていないものに限って)認めています。
以上が「shio.icon的七つ道具」です。ご自身でいろいろ試して、自分に合った道具を使ってください。
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最後に。
2020年度は在宅で授業を開始することになって、普通とは違った体験ができそうです。ピンチをチャンスに変えて前進しましょう。「人生、アドリブ」でいきたいと思います。まずはオンラインでお会いして授業を進め、法律学の醍醐味をご一緒に味っていきましょう。そしていつの日か、リアルに顔を合わせて笑顔を交わす日を楽しみにしています!! 塩澤一洋
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